旅は終わってしまったけれど、、

旅立ちを祝ってくれたみんなへ、

旅の途上で出会ったみんなへ

そして、これから旅立つ君へ、

 

俺の旅はインドで終わった。

 

とても一言では伝えきれないので、長文になってしまったけれど、

でも、どうか最後まで読んでいただけたらうれしい。

 

そして旅立つ前の友達に家族に、伝えていただければと思います。

 

 

 

俺は会社を辞め、愛車を売り、世界一周の放浪の旅に出た。

旅の始点シンガポールから陸路・海路で、マレーシア、タイ、カンボジアベトナムラオスを横断し、ネパールへ渡りインドへとたどり着いた。

 

出発してまだ三か月。一年間の予定だったため予算的にも時間的にもまだまだこれからという段階。

宿は500円以下、食事も移動もローカルなもので節約して楽しむというのが俺のスタイルだった。

 

インドの後はエジプト、イスラエルを旅し、フランス~スペインへは約800キロを歩き横断、そしてモロッコへ、そこまでが決めていたとりあえずの予定だった。

 

 

俺は首都デリーから南に位置する町ジャイプールへ行った。

 

駅前で二人の男に声をかけられた。

 

「ハローマイフレンド」この一言が始まりだった。

 

一人は身長が俺と同じくらい(184センチ)、日本人と変わらない肌の色で顔はかっこいい。

もう一人は身長は小さく目のクリクリした肌の色の濃いtheインド人という風貌。

俺が日本人だとわかると、長身の男がつたない日本語で、奥さんが日本人であること、そしてこれから日本に住む予定であることを説明した。

 

インドについてはかなり本を読み、強く惹かれていた国だった。

犯罪が社会問題になっていることも知っていたし、旅行者が睡眠薬を盛られ身ぐるみをはがされる、殺害されるという事件もかなり聞いていた。飛行機の中でも現地の犯罪について念入りに読み込みんだ。

 

こういう風に最初から親しく話しかけてる人には注意をした方が良いのはもちろん、日本語を話す人には用心するに越したことがないのは知っていた。

 

実際にデリーで何人ものインド人がこのように近づき、高額の商品やツアーに申し込ませ騙そうとしてきた。

 

ラオスで会った女性の日本人バックパッカーは、実際に持っている飲料水に睡眠薬を盛らてしまった。

しつこく水を進める事に怪しく思ったもう一人の友達が気づいたので助かったという話だった。

 

ガイドブックやネットには、親しく話しかけてくる人と話してはいけない。ましてや日本語を話す相手などなおさらで目も合わせない方が良い。と、大体そんなことが書いてあった。

 

それは違う。と俺は思っていた。

俺はインド人の国、インドを旅させてもらっている。

なのにそんなマインドで旅をしていいわけがない。

それでは楽しめるわけがないと思った。

 

俺は相手がどんなに怪しくても、コミュニケーションは進んでとるようにした。

だからインドについての気候や現地価格、観光ルートなど知らない情報を教えてもらうことができた。

でも、声をかけてきたほとんどの人は、俺をどうにか利用してやろうと考えている奴らだった。

ただその中にも本当に親切で声をかけてきてくれた人に、助けられたこともあった。

その度に、ほらね!ほらね!危険だからって防御ばかりじゃダメなんだよ!と一人で嬉しがっていた。

 

それでも当然話しかけてきた二人を始めから疑ってかかった。

その男は妻と話すかい?、と電話を渡してきた。

電話の奥の彼女はとても感じがよく、彼の日本語があまり上手くない事を詫び、周りにはあまり宿が多くない事、そして価格帯が他より少し高いということを教えてくれた。

 

1人はトゥクトゥク三輪自動車)のドライバーでゲストハウスまで20ルピーで送るというのだ。

本来夜の駅前で、宿も決まっていない相手には弱みに付け込んでボッタくるのが普通だが、彼らが請求したのはかなり安い値段だった。

 

怪しいがそれ以上を請求されても絶対に払わない上で、彼らにお願いすることにした。

 

小柄の男が運転をし、長身の彼は日本人と会ったのが本当に嬉しかったのかニコニコして、ディズニーランドや、大阪で撮った写真。

千葉に住む奥さんとのツーショットなどスマホの写真をたくさん見せてくれた。

子供が最近生まれたといい、ホーム画面はかわいい赤ちゃんの写真だった。

彼はすごく日本が好きなようで、俺は乗車中楽しむことができた。

 

長身の男は明日一緒にトゥクトゥクで回らないか?と誘ってきた

みんな観光客はスマホやガイドブックばかり見て、現地の人と関わることがない、俺はインドの文化を知りたいし、日本の文化も知りたい、それに日本語の練習もしたいんだ。そう言った。

 

俺は君の気持はわかるし、その通り正しいと思う、でも俺はまず一人で歩いて回りたいんだ。これが俺のスタイルなんだ、と彼の誘いを断った。

 

何軒かのゲストハウスを周ったが満室、三件目の宿でようやく手ごろな料金で部屋をとることができた。

 

彼らが請求したのは当初の料金のまま、それに安宿までたどり着くことができて満足していた。

 

これから一緒にお茶を飲まないか?ビールを飲まないか?と誘ってきた。

 

俺は移動で本当に疲れていたし、怪しい彼らとすぐに、しかも夜に行動することはできないので丁寧に断った。

すると長身の彼は朝飯をいっしょに食べないかと誘ってきた。

 

俺は断わると、君はなにも払わなくてもいい約束する、ただその朝食後は仕事があるから1時間だけどうかな?と付け加えた。

 

俺はこの地域の情報を教えてもらいたいし、宿が見つかり満足していたので朝食ぐらいならいいかと行くことにした。

 

翌朝彼らは約束通りの時間に宿に迎えに来てくれた。

長身の男はとてもさわやかな男で、一緒にいると楽しいタイプだった。

 

近くのレストランに移動し朝食を食べた、二人はイスラム教徒で、長身の男は30歳で名前はアリー。小柄の彼は23歳の俺と同い年、名前は忘れてしまったのでマイクとしておく。

 

お互いの職業や年齢などを話したのち、アリーは務めている会社のジュエリービジネスについて説明し始めた。そして君も一緒にやらないかと誘ってきた。完全に怪しい内容だった。

お前もやっぱりそうだったのかと俺はがっかりした。

 

しかしその場できっぱり断ると、相手が逆上するかもしれない。

少し考えたいから時間をくれとアリーに伝えると、それ以上その話をすることはなかった。

 

その後はお互いの国、文化について話し有意義な時間を過ごすことができた。

マイクは無口なタイプだ。

俺はほとんどアリーと話していた。

彼は今年の10月に日本に行くことになっていて、千葉に住む奥さんと三年は住むのだという。そして彼の仕事はやはりジュエリー(輸出入)、東京で働くようだ。東京のクラブが好きなんだと笑顔で言った。

 

彼は時計を見て、もう行かなきゃいけない時間だと昨日言っていた通り、一時間で引き上げることになった。

 

 

彼は本当に代金を支払った。そして日本に行ったときはビール驕ってねと笑顔で言う。

一時間も話せばアリーの優しい人柄はなんとなくわかった。

 

 

アリーは、この時期にはラマダーンがあってその前に仲間・親戚が集まってチキンカレーを作って食べるんだ、それに近くの村のオジのいとこの結婚式もあるんだ。もしソウタがよかったら来るかい?と誘ってくれた。

 

 

少し怪しいが悪い奴らではなさそう、俺は一時間を共にしてそう思っていた。

インドの人々の暮らしや、イスラム教徒の生活にはとても興味があった。

今まで約3か月旅をして、現地の生活に入る機会はなかなか無かった。

 

まだ完全に彼らを疑っているが大丈夫だろうと俺はOKの返事をした。

 

 

彼は夕方の6:30に宿に迎えに来ることとなった。

俺が町の方向に歩きだした時、アリーは、それならマイクがその方向の途中まで行くからそこまで乗っていきなよ、といってくれた。もちろんお金はいらないよ。と。

 

俺はお願いすることにした。そして本当に途中で降ろしてくれ、じゃあね!と言って、走り去ってしまった。

本当に善意だったのか、とありがたく思った。

 

 

俺は町を一日観光した。そして政府公認ガイドという流暢な日本語を話すインドの方と出会った。

彼に色々なところを案内してもらった。細かいところまでとても詳しく質問には即答で分りやすく話してくれる。

この町からはたくさん石が採掘され、加工技術も高く、宝石の街とも言われている、そして政府公認のお店も多く価格が安いということを教えてくれた。

思いだしたようにアニーとマイクについての話を聞いてみた。

その類の詐欺は多いから何も受け取ってはいけないし、何も払ってはいけないよ、新聞でそのニュースはよく見ると俺に忠告した。

でも生活が見たいからカレーには行っていいかな?と聞いたところ、それは大丈夫かもしれないけど、絶対に何も渡してはいけないと念を押してくれた。

 

5月後半のその日のインドの気温は46℃だった。

一日中歩き回って疲れ果て、次の街に行きたくなった俺は明日出発の切符を買ってしまった。

 

彼らと約束をしてしまったので、相手が誰だろうとバックれるのは悪いなと思い、

直接断るために俺は宿でアニーを待った。

 

彼は約束の時間通りに姿を見せた、調子はどう?と笑顔で聞くものだから

俺は瞬間的になぜかGOODと答えてしまっていた。

コイツが何か俺に無理やり何かすることはないだろうと瞬間的に思った。

 

念のためにパスポートとお金は宿のベッド下に隠しておき、最低限の荷物を持っていくことにした。

 

彼はこれからカレーに使うチキンを買いに行くから、

そう言って隣にいた中年ほどの親戚だという男を紹介し、彼と先に行っててくれと言う。

 

もうすでに話が違う。

俺はやめようかと思ったが、好奇心の方が勝ってしまった。

 

その男と車でみんなが集まるアパートへ向かう。

彼の名前はまたしてもアニーだという。

宿からは近いと言っていたのに車で30分ほどかけ、子供たちが遊んでいるような民家に到着した。

 

車内では、彼もやはりジュエリーの仕事をしているのだと分かった。

俺はうんざりしてしまった、、でも賽は投げられたんだ、、覚悟を決めた。

 

到着したアパートにはすでに5人ほど、俺と年が同じくらいの男達が集まっていた。

俺は歓迎されるような形で家に入った。

皆が円になって座っている部屋のかどにどうぞどうぞと通された。

 

普通の家だと思っていた俺は、男しかいない事に違和感を覚えていた。

少し自己紹介をする。彼らは俺をにらむように俺を見ている。

あーあ終わったかもなと思った。

彼らは俺に渡された水を飲むようにしつこく進めた。

 

大人数を相手にしてもう抵抗することはできないな、と俺は水を飲んだ。

なんともなく、ただの水、睡眠薬は入れられていなかった。

 

 

隣の男が俺に色々と話しかけてくる。仕事の話だった。

彼は不動産の仕事をしているようで、また俺に一緒にやらないか?と誘ってきた、、、

英語が得意じゃない俺は、その早い英語を聞こうと努力もせず、ただただ無視するように聞いていた。

どうして俺なのか?俺は聞いた。

 

なぜなら~なんやら~かんやら、、、、英語が早くてよくわからない

適当に聞き流し、俺にはとにかくできないと断った。

彼がこの集団を取りまとめているような、兄ちゃん的な存在であることが観察していてわかってきた。

 

彼らはいつ俺に襲い掛かってくるのか、何を企んでいるのか、俺は頭の中でできる限りの可能性を考えた。

 

彼らの会話は基本ヒンドゥー語が使われる。

何を話しているのか俺には分からない。

 

隣の彼はチャイ(インドの甘い紅茶)の作り方を教えてあげる、と言って

日本に帰ったら作ってみてと言って、俺をキッチンに案内した。

キッチンも部屋も以上にものが少ない、、

 

彼は丁寧にユーモアを交えて教えてくれた。彼の名前はカラン、28歳で奥さんと子供がいる。

チャイを作っている途中に子供から電話がかかってきて、カランと一緒にテレビ電話に映ったり話をしたりした。すごくいい人そうだった。

 

俺を襲おうというのなら、さっさと脅せぱいいのにどうしてこんなまわりくどういことをするのか頭の中は疑問だらけだった。

 

俺は気づかれないように、部屋の自分の荷物が触られていないか、随時チェックした。

彼らには特にそういう事をするような感じもなく、適当にくつろいで大声で笑ったりしていた。

 

誰かが外に来てみな。と言い。出てみると仲間のうちの一人が月に向かって祈っていた。隣の家の女性も祈っていた。

ラマダーンの時にこういう月が出るのはとてもめでたいんだ。とカランが説明してくれた。

 

外では近所の子供たちが遊んでいる。

俺はずっと月を見ていた。祈っている一人を除いてみんな室内に入ってしまった。

俺はどこかに逃げるようなそぶりをして、少し隠れるようにして歩いた。

その男をちらっと見た。

逃げないよう俺を監視しているのだろうと思っていた。

でも彼は祈り続けているままだった。

俺は彼を疑ってしまった自分を恥じた。

逃げようと思えば、そんなチャンスはいくらでもあった。

 

みんなでチャイを飲んだ。少しづつ打ち解けあい、みんなと笑いあえるようになってきた。この現地の人たちと一緒になる一体感は、旅に出てから初めてだなと、

ずっと一人で旅をしていた俺は少しづつ楽しい気分になっていった。

 

それでも常に彼らの挙動に注意していた。

彼らの目の動きや所作すべてに神経をとがらせて監視した。

 

ドアの音がするたびに、一人また一人と人数が増えていった。

その度に誰が来るのか、何をされるのかと怖くなり体を強張らせた。

 

彼らの職業はそれぞれで、タクシードライバーもいれば携帯の販売など様々だった。

それに宗教も様々。キリスト教の者もいた。

このアパートは、それぞれ親戚同士が友達同士がみな自由に出入りでき、時間を共有できるような場所だった。

 

俺が楽しくなり写真を適当に何枚か撮った。

するとイスラム教の一人が、俺はイスラム教で今日は写真に写ってはいけないんだと言った。

俺は謝り、あなたの写真は撮っていない旨を伝えた。

彼は、それなら良いんだ、でもチェックさせてくれと言い、1枚1枚チェックした。

彼は敬虔な深い信仰者なんだと思った。そして俺は無礼で何も知らない、勉強してから来るべきだったと恥ずかしく思った。

 

カランからお金を渡されて出て行った何人が何やら食材をもって帰ってくる。

 

カランはインドのカレーの作り方を教えてあげるよとにっこり笑って言った。

彼は何かお兄ちゃんみたいな存在で、すごく親しみを持てる。

彼の笑い方はとてもチャーミングでその時だけは緊張から解放された。

 

やっぱりカレーは作るのか、、本当に招待してくれただけなのか?俺はそう何度も思った。

 

でも俺は疑いを捨てることなく彼ら一人一人の怪しい動作を見逃すまいと常に目を光らせた。いつ襲い掛かられるのか、殺されるのか、そういう最悪の状態を常に頭の中においていた。

 

キッチンで作り方を教えてもらっていると、何人かの男がつるんでキッチンまで様子を見に来る。

ニヤニヤして彼女はいるのか?年はいくつなんだ?などと、くだけた会話をした。

俺と同い年の男が何人もいて、彼女を見せてもらったり、仕事の話をしたりして、俺は少しづつ少しづつリラックスしていった。

 

 

終盤にアリーとマイクが現れ、おー!マイフレンド!と言い、彼らは最高の笑顔を見せた。自分の家だと思ってリラックスしなよ~と言い

彼らは仲間との会話に混じり、スマホをいじったり適当に過ごしていた。

 

全く俺をどうにかしようという風には見えなかった。

 

皆でカレーを囲んで食べた。

食事中に話はしちゃいけないんだと、食事中に教えてくれた。

そして食え食えと、世話を焼いてくれる。

アリーはとても優しい。

 

もうかなり夜遅くになっていた。

 

アリーとカランは俺に言った。明日ラマダーンでおじの村に行くんだ、次の日には叔父の親戚の結婚式がある、もしソウタが良かったら来ないか?

もし行きたいんだったら、今から、もしくは明日の朝にホテルまで荷物を一緒に取りに行こう、そしてここで寝ればいいよ。

 

俺は迷っていた。

 

断わりずらいというのもある。                     

それに疑い続けて時間を過ごすのにも疲れていた。

 

でもこれから旅を続けてこんな機会はめったにないだろう。イスラム教徒の本当の生活というものを、インド人の生活を見てみたかった。

 

俺は世界を見るために、色々な人と出会う為に世界を旅していた。

 

もし行かない事に決めてしまえば、結局あいつらは悪い奴らだったに違いない、と結論付けてこれから生きていく事になるのかもしれない。と俺は思った。

 

すこし大げさだけど、これはこれからの俺の生き方の問題だと思った。

 

ネットやガイドブックには日本語を話すインド人や、親しく話しかけてくる人は全員相手にしない方が良いというようなことが書いてある。

 

確かに俺は警戒はするべきだと思う。

でも俺は彼らの国を旅させてもらっているし、なかには本当に親切で声をかけてくれる人もいる。実際に何度も助けられたことがあった。

 

だから無視して旅をするというのは少し違うと思った。

 

だから俺は話しかけてきた人には心を開いて、まず話を聞くことにしていた。悪い人もかなりいた。でも実際に面白い情報をもらったりしたし、頼んでもいないのに助けてくれてた人もいた。

 

俺が迷っているとカランが俺に言った。

 

いやいや強制じゃないんだからと言って笑い、もし帰るならそのまま宿まで送るよと言って、歯を見せるようにまた魅力的な笑顔で笑った。

 

こんな優しい彼らを疑って、

俺は楽しい時間をあまり楽しめなかったことを後悔した。

俺には逃げるチャンスはいくらでもあった。

 

 

まだ少し怖いが、自分を、彼らを信じて俺は行くことにした。

 

完全に信じたわけではない。でも俺は彼らを信じようとした。

 

そしてみんなに、ありがとう、ありがとうと何度も感謝した。

彼らはいいんだ、いいんだと言って握手を交わした。

 

ホテルに荷物を取りに行くことに決め、

アニーとマイクの3人でトゥクトゥクに乗り宿まで向かった。

 

風に当たりながら、とても怖い気持ちになっていたが、何事にもリスクは付き物だろうと腹をくくっていた。。

 

道の途中で警察が検問をやっていて、すでに一台のトゥクトゥクが捕まっていた。

 

俺は怖かった。警察と一般市民が手を組んで旅行者から金を巻き上げるという話を以前に聞いていた。

俺は、ポケットやカバンに麻薬など入れられていないか、、と思った。

アニーが警察に駆け寄り何やら話している。警察はアニーの顔をにらみ行けというそぶりをした。

アニーが車に戻り、また走り出した。

 

大丈夫だった。

 

アニーはこう説明した。

インドの警察は腐敗しているんだ。何もしていなくてもああやっていちゃもんをつけて金を取ろうとする。

おじの名前を出したら、行けと言われた。おじは村ですごく慕われている人で、あの警察も村の人間だったんだ。

腐敗している、良くないよな、

もし俺が君を殺したとしてもお金を払えば大丈夫なんだよと笑って言った。

 

俺は怖くなった。足が震えだした。彼の言った言葉に深い意味があるのか、それともただの会話か?、、分らなかった。

 

あんなにも逃げるチャンスがあった、今からでも逃げられる、、、彼らは標的にする人間のテストをしているのか?と思った。

 

宿についてしまった。俺は急いで荷物をまとめる、手も足も震えていうことがきかない。今なら逃げることもできる。

 

でもこれは生き方の問題なんだと自分に言い聞かせ、宿を出た。

 

賽は投げられたんだ。

 

俺は覚悟を決めた。荷物をもって彼らのいるアパートに戻った。

 

アニーとマイクを含め集まっていたほとんどは各々の家で寝るから、また明日と笑顔で言い帰っていった。

 

カランは唯一あるベッドのある部屋を俺に自由に使ってくれと言ってくれた。

 

もし眠くないなら、何人か残っていた数人含めて、みんなで話そうよっと言ってくれた。

 

俺の疲れは尋常じゃなかった。疲れているので寝ることを伝えた。

 

彼は、そうだよな!疲れてるに違いないゆっくり休みなよ、と言ってニコッと笑った。

 

俺は感謝の気持ちで一杯だった。

それと同時に俺は怖さで体も震えていた。

 

朝になった。

荷物はそのままの状態、何も盗まれていなかった。

逃げ出したい気持ちは薄れていた。もう大丈夫かもしれない。

でもまだ用心しよう、そう思った。

 

彼は満面の笑みでグっモーニング!といって歯を見せる笑いをして俺を安心させた。

シャワーをすすめてくれた、浴びてから部屋に戻るとベッドの上にバナナを置いてくれていた。

 

怖さはだんだん消えていき、感謝の気持ちの方が大きくなっていった。

 

でも俺はまだ疑って続ける。村に行く方が俺を殺すのに都合がいいのかもしれない、、

 

アリーとマイクが来た。もちろん笑顔で握手だ。

彼らと会うのは3日目だ、友達と再会したような感覚で、笑顔で返事をした。

 

昨日いた全員が村に行くわけではなかった。

アリーとマイクとカラン、それに初対面の男。28歳で背が低い。名前は忘れたためリムとしておく。

この4人だった。

 

少しみんなでだらだらしていた。

その間カランはイスラム教の伝統的な正装、真っ白の袴のようなものに着替えていた。

 

俺は見たこともない服装に見入っていた。

カランが俺の目線に気づき、結婚式の時にはソウタにも着せてあげるから楽しみにしててよと言って笑った。

 

車に乗り込み約3時間、俺は場所を移して殺されるのではないかと気が気でなかった。

常に最悪の事態を想定し、疑いに疑いつづけた。

砂漠の村に到着した。

 

家はインドで見てきた家の中では大きめで庭もあった。

そこに家族がそのまま住んでいるようで、女性も子供もいた。

 

ここで殺されることはないだろう、とても安心した。

 

家の人たちはもの珍しそうに俺を見る。

 

部屋に案内されそこに荷物を置いた。

 

別の部屋のベッドの上には髪の薄い腹の出たタンクトップのおじさんがいた。彼がオジだった。

アリー達はおじさんを中心に囲むように座っていた。

カランは挨拶するよう呼びにきてくれた。

 

俺は招いていただけたことの感謝を伝え自己紹介をした。

 

想像していたおじさんよりも、普通で少し怖い印象だった。

アリーもマイクもリムもカランも皆、彼の前では静かで恐縮しているようだった。

 

おじさんは微笑んでこういった。

ようこそ!君は私たちの大切なゲストだ!

君がハッピーになれば、神アッラーが喜ぶ、すると私もハッピーになる。

ゆっくりしていきなさい。

そう言ってくれた。

 

もし君が何かだべたければ、何か飲みたければ、なんでも言いなさい。

すぐに持ってくるからね。君は私たちの大切なゲストなんだよ!

とても親切に真剣に言ってくださった。

 

小さい男の子が満面の笑みでチャイを持ってきてくれた。

とてもかわいい子供達がいる。実際に家族が暮らしているんだ。

 

皆でチャイをすすりながら、色々と話をした。

彼は日本のことについて、そして俺の職業について興味を示してくれた。

彼の職業は、やはりジュエリーの輸出入であった。

 

世間話をしていると、突然おじさんは前にいたアリーのお尻をおもいっきり引っ叩いた。

彼にヒンドゥー語で何やら怒鳴っている。

 

どうやらゲストである俺に対しアリーが何か無礼をしたようだ。

 

おじさんは俺に対し、気遣いができないやつで悪いな、君は私たちの大切なゲストなんだ。だから、もし彼らが何か君の気を悪くするようなことがあったら、私に言ってくれ。と厳しい口調で言った。

 

アリーの俺に対する無礼が何なのかわからなかったが、おじさんのその俺のことを思ってくれる気持ちに嬉しくなった。

 

彼は俺の中で今まで出会ってきたどのタイプの人間にも属さない類の人だった。

 

見知らぬ俺を大きい心で受け入れてくれ、真剣に言葉にしてくれることがとてもうれしかった。

 

おじさんは、君たちはどのくらい、うちにいるつもりなんだ?と言った

アリーは3日お願いします!と言って彼の前で少し笑いながら手を合わせて頼んでいた。

いや、ダメだ1日だとおじさんは言った。

 

おじさんは俺に君は何日ここにいたいんだ?と聞いた。

俺は何と言ったらいいかわからなくて、アリー達と一緒に帰りたいと思うので、、ちょっとわからないです、、

 

するとおじさんは大笑いして、そうか君は俺たちの大切なゲストだ。

好きなだけいるがいいよと言った。

 

オジサンはアリーに、いつまでもいればいいよと言って笑った。

 

アリーは、明日もここで過ごして、明後日は場所を移動して結婚式を楽しんでからジャイプールに帰ろう。と言った。

 

俺はこれからの予定が決まり、安心し、そしてとても感謝した。

 

俺は家の子供たちにもの珍しそうに囲まれて、

これが今インドでヒットしているスターなの!

これがすごく売れている歌で~

君はとてもガタイがいいね、6ッつに割れているのか?見せてくれよ!

などと色々な質問をされ、みんなで盛り上がった。

どこの国でも見知らぬ外国人に興味を示し、最初に近づいてきてくれるのはいつも子供達だった。

すごく楽しかった。

 

俺たちはその部屋を離れ敷地内にある離れの一室に移動した。

それが俺たちがみんなで使える部屋のようだった。

 

リラックスしてね君はファミリーなんだ!リムが言った。

 

アリーがおじさんの印象を尋ねた。

 

俺は正直に言った。

赤の他人である俺をこんなにも歓迎してくれてとてもうれしい、ここに連れてきてくれてみんなありがとう。おじさんはイスラムの深い信仰者のようだね。とても感謝している、でも少し怖いよなと言って俺は笑った。

 

尻を叩かれたアリーがこう言った。俺たちはおじさんを尊敬しているんだよ。彼は誰でも皆に親切に接する。

村の人々が困っている人がいれば親切にするんだ、だからみんな彼のことを尊敬している。彼はとても良い性格なんだ。

だから彼は大きい会社を持っているし、明後日の叔父の親戚の結婚式には2000人の人々が集まるんだ。

 

カランもマイクも、リムもそう言って、だからリラックスしなよ。今君は俺たちのファミリー、俺たちのブラザーだよ。そう言っていくれた。

 

俺はここまで連れてきてくれた彼らに感謝した。

すでにたくさんのものを受け取っていた。

 

インドでは、あったこともない人に、「ハロー、マイフレンド」と声をかけられ、話が始まってしまうことがある。

ほとんどの奴が、何か金目のものを引き出そうとして近づいてくる人達なので、

俺は友達になった覚えはないけどな、と思いながらも応じていた。

 

でもそれは初対面でも相手を友達だと思う彼らインド人の価値観なんだと思った。

常に彼らは相手に対してオープンで、たとえ他人でも友達と接するような態度で生きているんだ。俺はそう思った。

 

実際駅で会った時から、俺に対する態度は何も変わっていない。

疑い続けてきた自分を恥じ、その間ずっと楽しめていなかったことを後悔した。

だからその瞬間、瞬間を楽しんで良い時間を過ごそうと俺は決めた。

 

その村は砂漠にあった。

 

目の前の道にはほとんど車は通らず、バイクがたまに行き来する程度だ。

よく荷車を引いたラクダが家の前を通り過ぎていく。

その度に、俺が眠たそうにしていても無理やり起こして、ソウタ!らくだ!ラクダ!とニコニコして知らせてくれた。

 

小さい村なので正直言って何もない。でもその感じがとても良かった。

部屋でぐだぐだしながら時間を過ごした。

親戚の中でも、まったく手伝いをしていない彼らは、お客さん的な立場なのだろうと思った。

 

夜はヤギのカレーだよ!楽しみにしててよ、とてもおいしいから。とアリーが教えてくれる。

 

彼らがこそこそと煙草を吸い始めた。おじさんは煙草とお酒は嫌いなんだ、と言ってオジさんを警戒していた。

 

叔父さんは部活の顧問みたいな存在だなあ、

内心、君たちは親戚の中でも遊んでそうにみえるから、絶対ばれてると思うけどなあ、とおかしく思った。

 

インドの水道水は、外国の人のお腹に良くないから、と言っていつも、子供たちがペットボトルの子供たちが近くの売店まで行って持ってきてくれる。

とても申し訳ないので、少しづつ節約して飲んだ。

 

 

大事な行事がある時だけこの村に来るんだ。ジャイプールの喧騒、仕事を離れ、

この静かな村でリラックスするんだ。アリーら皆はそう言って幸せそうにくつろいでいた。

 

 

親戚同士、家族だけの大事な行事がある時、俺は見知らぬ外国人を無条件で親切に招待することができるだろうか?と思った。

今の俺ではとうてい考えも及ばないものだった。かれらの器の大きさにただ驚くばかり、ここまで楽しませ、現地の生活に入らせてくれたことに感謝した。

 

夜は村の人々も来るんだけど緊張しないでね。

みんなおじさんを尊敬しているイスラムの人達なんだ。彼は良い人格者なんだよ。と言って彼らは誇らしそうに教えてくれた。

 

キッチンで調理が始まると、見てな!見てな!これがインドの作り方なんだ!と言って連れてきてくれた。

 

夕暮れになると、全部で5~6人くらいだろうか、イスラムなのかインドなのか分らないが伝統のありそうな服をまとった男たちが、ぽつぽつと到着し始めた。

彼らはおじさんに挨拶をすると、じゅうたんを敷いて、お祈りをしながら立ったり座ったり儀式を繰り返していた。

これがイスラム教なのか、、、これが彼らの暮らしなのか、、俺は見入っていた。

日本の暮らしとはかけ離れていた。

 

それを見てアリー達が笑っていた。

 

夕食が始まった。

庭に絨毯が敷かれ、そこにカレーやフルーツなど家族の子供ちゃんや女性、男たちが運んでくる。

そのまま地べたに座り、メシを囲んで手で食べる。

どうやら食事は男が先に食べるという決まりがあるようだった。食事が終わると女性や子供らが食べていた。

少しづつ、イスラムの文化に、彼らのコミュニティーに、その地に溶け込んでいった。

 

アリーはいつも遠慮している俺を気遣って、御皿にものを乗っけてくれる。

 

手で食べるインド式には慣れていた。

トイレだって紙はない、水の張られたバケツの桶からみずをすくって起用に手で洗う。

 

 

食事が終わると、2階の屋上に移動した。

絨毯を敷き4人で横になり、涼しくなった夜の星々を眺めた。

 

俺は彼らを本気で友達だと思い始めていた。完全にリラックスし、とてもよい時間を過ごそうとした。

 

もし最後、彼らにこれだけ俺たちは君に親切にしたんだ。だがらお金払え。といわれたとしても、

かなり悲しいけど、俺はその要求に応じようと思っていた。

 

この長い旅で、紛れもなく一番良い瞬間だった。

ここまで来た自分に、心を開けた自分に、リスクを背負ってでも好奇心に従った自分に、やっぱり俺は正しかったんだと星を見ながらそういう気持ちに浸った。

そして、もはや友達となった彼らに、真剣に感謝の言葉を伝えた。

 

室内は暑いので、そのまま川の字になり眠りに落ちた。

 

深夜風が強くなり始め、雨が降り嵐が来た。

びしょびしょに濡れながら協力して絨毯をたたみ、庭の離れにダッシュで避難した。その滑稽さがおもしろくて俺だけ笑っていた。

 

そして再び眠りに入った。

 

 

翌朝、朝食を食べながらその出来事をネタに笑い合った。

 

日中になると、気温が上がるから、午前中のうちに散歩に行こう。

そう言って、近所の砂漠へ散歩に連れ出してくれた。

 

もしラクダがいたら乗っけてあげようと思っていたのにいないな~と、残念がって、もし明日いたら乗せてあげるね。と帰り道に背の低いリムが言ってくれた。

 

明日は結婚式だぞソウタ!とても楽しくていろんな人がいるから盛り上がれるぜ!明日は酒を飲むぞ!とオジさんがいないことを確認してアリーが言った。

おじさんはには絶対に内緒だぞ。もし見つかったらビンタなんだ。と言ってにっこり笑った。

 

彼らと俺は本当の友達になっていた。

 

彼らに会う為に、今後何度もインドに訪れることになるんだろうなあ。

 

もし彼らが日本に来た時には家族を説得して、同じように歓迎して楽しもう。

 

もし日本に来るお金がなければ航空券をプレゼントしよう。

 

日本に戻ったら、この家には何かちょっとしたプレゼントを贈ろう。

そんなことをワクワクして考えていた。

 

 

ある時、背の小さいリムと二人になった時、真剣な顔をして少しお金を貸してくれないか?

と頼まれた。

ついにきてしまったか、、俺は思った。7~8千円程度だった。

彼はジャイプールに戻ったら必ず返すからと何度もうつむいてつぶやく。

 

分かった。もちろんいいよ。俺はそう答えた。

 

彼は絶対におじさんや家族、アリーなど誰にも言わないでくれ、と念を押した。

 

騙されたら騙されたらで仕方ない。彼を信じていたし、彼にあげるつもりでお金を貸すことにした。

 

ただ、持ち合わせがないためATMに行きたいことを伝えた。

すると彼はその旨をおじさんに話しに行った。了解をとる必要があるらしい。

 

おじさんがなぜお金が必要なのか聞きたがっている、直接話してくれないか?とリムは戻ってきて言う。

 

オジサンには、ジャイプールに戻った時、チケットや宿代がないので用意しておきたいと伝えた。

彼はなぜ、というような表情で、であれば、ジャイプールに戻ってから引き出せばいい。

君が何か食べたければ、飲みたければ用意するから。

君はここではお金は必要ないんだ。心配するな。

 

俺が頷くと、にっこり笑い俺の肩に手をかけ、ここは君の家なんだ、君は家族なんだ、リラックスしてくれよ。君がハッピーになれば、僕がハッピーなんだ。そう言ってくれた。

 

俺は村の人々が彼を慕う理由が分かったような気がした。

 

リムにそのことを伝えたが、外貨でもいいから持ってないか?ということだったため、

俺は現地通貨ではなかったが、仕方がないの100$札を小さく折ってこっそり渡した。

彼は絶対に返すと言い、約束した。

 

 

 

その後は家でだらだらし、次はインドのどこが良いよ、どこに行くべきだ!なんて言って、これからの旅について教えてくれた。

マイクは俺の脚を枕にして眠っていた。

 

リムはインドの古い映画をスマホで見せてくれストーリーを色々と説明してくれた。

映画の中で女性はサリー(カラフルなインドの伝統衣装)を着ていた。

目を離すと現実に家族の女性も同じサリーを着て着飾っている。その感覚が面白かった。

伝統を大切にしている、、日本の伝統とは、、などと彼らの生活にはそんなことを考える機会がたくさんある。

 

ある時は、皆が穏やかに話していると、突然口論でも始めたかのように、カランがおじさんと身振り手振り大きい声で話が白熱する時がある。

アリーに何の話をしているのか聞くと、神について話しているんだよと言う。

 

彼らは日常的にそんな話をしているのか、、俺は今まで知らなかった全く別の世界にいた。

彼らを尊敬の眼差しで見ていた。

 

カランは驚いている俺ににっこり笑って言った。外国の人には喧嘩しているように見えるみたいだね。でも違うんだよ。俺たちは物事をストレートに言うんだ。

カランは今までも人生について色々な話をしてくれた。彼の人生に対する真摯な態度、表情、神に対する深い信仰、家族を大切にする気持ち、、、etc 俺は彼のような男になりたいと思っていた。

 

夜になるとまた、皆で屋上に上がって星を眺めた。

夕食を食べすぎ、俺はアリーと歩きながら話しをした。

人生について、生き方について、世界について、、今まで考えていたことを俺はアリーに話した。

 

彼はイスラムの深い信仰者ではなく、彼は彼の世界を持っていた。

 

宗教の話になり、俺は彼にこう言った。

イスラム教が悪い意味で世界中で注目されてるけどさ、一部の人がそうやって目立っているだけで、やっぱり多くの人はこうやって穏やかで笑顔に溢れているね。

俺は全部の宗教の行き着くところは一つで、そこまでの道のりがそれぞれ違うだけなんだと思っているよ、だから一人一人がそれぞれ自分の道を行けばいいんだと思う。というようなことを言った。

 

彼はにっこり笑って俺に握手を求めた、そして、こう言った。

その通りだよ。俺はすべての宗教をすべての人間を尊敬しているよ。大事なのは理解、理解が大切なんだよ。俺はそう考えてる、後は何でも楽しむこと。

俺は過去も未来も考えないよ、今だけを楽しむんだ。そう言った。

 

この会話がとても記憶に残っている。

 

俺は長い旅に出て、そういった深い話をする機会がなかった。

一時間は話していたかもしれない、とても良い時間だった。

 

その後は昨日と同じように絨毯を引く、昨日は雨が降ったから今日はもっと綺麗だぞと教えてくれ星を眺める。

 

その日はカランとおじさんもいた、円になって座り色んな話をする。

オジサンは今迄の俺の旅の話を聞かせてくれと言い。俺は彼に話した。

 

その後はフランスからスペインまで歩いて横断すると言うと、驚いて、やっぱり君は強い男だなと言って笑った。

日本の歌を教えてくれと言われ、困っている俺を見て。

たくさんの観光客をトゥクトゥクに乗せているマイクが、

「幸せなら手を叩こう!」チャンチャンと、手を叩いて歌い始めた。

皆で歌った。

歌詞の通り本当に幸せだった。

 

オジサンは先に寝るねと言って抜けていった。

カランは横になり眠ってしまった。

 

するとアリー、マイク、リムがこれからガンジャマリファナ)を吸いにいくぞ!

と言ってこっそり階段を下りて家の外、塀の横にあるベンチに座った。

 

俺は彼らが吸っているのを眺めていた。

彼らは人が通るたびに、車やバイクが通るたびに吸っているモノを隠す。

俺たちが吸っているところを村の人に見られると、おじさんに話されちゃうかもしれない。だから見られちゃいけないんだと言って笑う。

 

俺はマリファナについては日本にいた時よりあまりネガティブな感情は持っていなかったため、彼らに対しても変な目で見るようなことはなかった。

 

特にインドでは観光客が多い所なら麻薬の売人はどこにでもたくさんいて、しつこいくらいに声をかけてくる、吸っている旅行者も多かった。

それに宗教によっては容認されてもいるという話を聞いた。

首都の道端で吸っているような奴もかなりいた。

 

違法は違法であるけれども、俺の中でかなりハードルは下がっていた。

むしろ真剣に人生について神について語り合い、リラックスのために吸い、星を眺めて穏やかな時間を仲間と過ごすということは、

愚痴を吐きながら酒を吐くほど飲むというようなことよりも、むしろ健全なのではないかと思っていた。

 

 

俺は吸わなかったけれど、彼らと一緒に星を眺めて話をしていた。

 

 

一台車が通った。彼らは吸っていたものをすぐに隠した。

 

 

少しすると、暗闇から二人の男が走って向かって来るのが見えた。

 

 

近づいてきた二人はヒンドゥー語でなにやらまくしたて、隣にいたアリーとマイクを物凄い剣幕で押さえ込んだ。

 

まずいことになった、、警察だ、、直感でそう思った。

 

 

俺はマリファナをポケットに持っていた。

屋上で持っててくれとリムに言われていたんだ。

 

 

警官から死角になるようにしてとっさに草むらに投げ捨てた。

 

彼らはシビアポリスだ。とリムは言って、俺の手を引き全力で裏口に向かって走った。

 

 

心臓が急速に高鳴り、血の気が引いて行った。

 

 

俺たちはバックパックを置いていた5畳ほどの暗い部屋に逃げ込み、彼はベッドの下に隠れるよう指示した。

 

彼の眼は恐怖におびえていた。

そして彼は隠れなかった。

 

 

埃だらけのベッドの下で必死に状況を理解しようとした。

シビアポリス、、、捕まったら終わりだ、、道で検問をしていた警察とは違うんだ、、

 

 

ドアが大きな音を立て、男たちがぞろぞろと怒鳴りながら入ってきた。

おそらく俺のことについてだろう、リムはとぼけているようだった。

 

 

俺は息を殺した。

 

 

どうすることもできなかった。

 

間もなく、ベッドと床の隙間から、ライトの光が差し込み、覗き込んだ警察と目が合った。

 

 

彼は手を伸ばし俺を引きづり出そうとした。

俺は自分から出ると言い、這い出た。

 

すると後からもう一人の警官が、アリーとマイクをつかみ、殴りながら座らせた。

戻ってきた二人は俺の顔を見ようともせず絶望した顔をし、頭を抱えうつむいて座ったまま動かなかった。

 

俺は事の大きさを理解した。

目の前で起きていることが信じられなかった。

 

騒ぎに気付いた、おじさんとカランが駆けつけ、警察に対し抗議をしていた。

俺はただ力なく壁にもたれ崩れるように座り、その光景を見ている事しかできなかった。

 

オジサンは、彼らはそんなことするわけがない、俺たちの家族なんだ!と何度も何度も必死に繰り返し訴えた。

 

オジサンは座り込んだ俺たちに、何もしてないよな?と何度も何度も聞き返した。

俺たちは何も答えることができなかった。

 

オジサンは俺たち4人がそんな事をしているとは微塵も思ってもないようだった。

全面的に信じていたんだ。

 

警察は、これが見つかった。と言って俺が投げ捨てたマリファナを全員に見えるように見せた。

 

警察は俺を指さし、こいつがポケットから投げ捨てたのを見た。と言った。

 

オジサンは高いうめき声に似たような声を上げ、目を見開き、顔を真っ青にして頭を抱え、オーマイゴッドと小さい声で言った。

 

警察は俺たち一人づつ指さし、懲役6年、懲役六年、懲役六年、懲役六年、と怒鳴った。

 

俺の人生は終わったと思った。

 

 

俺たちを強引に連れて行こうとする警察、おじさんとカランがそれを防ぎ、通せないようにし、何とかお願いしますと必死に説得している。

 

オジサンは泣きながら、俺は大きい会社を持っている、車も、家もたくさんある、

いくら必要なんだ?頼む許してくれ、お金なら払うから、と号泣しながら警察に頼み込んだ。

 

警察は何度も拒否し、俺たちに懲役六年だと言い。連れて行こうとする。

警察の意志の固さを感じた。

 

俺たちは、本当にすみませんでした、許して下さいと腹這いになり、警察の足を掴んで頼み込んだ。

 

俺たちは蹴散らされた。

 

警察署に連れて行かれたらすべてが終わる、刑務所に連れて行かれたら全てが終わる。

 

俺たちは必死だった。何度も何度も警察の足を掴み必死に許しを請うた。

 

俺たちは一人づつ、マリファナを持たされ写真を撮られた、パスポートの写真も撮られた。すべてが終わった瞬間だった。

 

 

俺は真剣に人生を生きようとした、そして旅に出た、、どこで間違えてしまったのか、、

どうしてこうなったのか、、家族を友達を仲間を想い、一生会えないのかと、、全て悟った

 

 

 

事情聴取をするようだった、アリーとマイクが部屋の外に連れてかれた。

 

部屋にはカランとおじさん、リムと俺だけになった。

 

オジサンはなぜ外で吸ったんだ、どうして部屋のなかでやらなかったんだ、

どうして?どうして?俺は君たちを信じていた、、と言って涙を流した。

 

俺は謝るだけで、なにを言えばよいのか分らなかった。

 

オジサンは、俺に誰から渡されたのか聞いた。

 

俺は分らなかった。隣にいるリムが俺に渡したが、友達を売ることになる。

本当のことを言っていいのか分らなかった。

でも俺は本当のことを言うしかないと思った、そして言った。

 

オジサンは目を見開いて、壁に立てかけてあった鉄のパイプを振り上げ彼を殺そうとした。

俺とカランで必死におじさんを押さえた。

 

次にオジサンは、泣きながら、電源に差していた延長コードを引きぬき、

自らの首に巻きつけ、殺してくれと叫び、思いきり締めあげ自殺を図ろうとした。

カランと俺で必死に止める。

 

 

俺は身に起きていることが信じられなかった。

崩れるように座り込んだ。力が抜けてしまった。

 

警官が一人戻ってきた。

ダメだ四人全員懲役六年だ。そう言った。

 

警官は俺の腕を掴み部屋から引きづり出そうとする。

カランとおじさんは警官を押さえ込むように俺に触れさせないように、

彼は俺たちの大切なゲストなんだ!

お願いします、彼は俺たちの大切なゲストなんだ!

 

カランは、俺が麻薬を持ってきたんだ、俺が持ってきたんだと言って俺たちを守ろうとした。彼には家族があった、でもそう言って守ろうとしてくれた。

 

 

アリーとマイクとリムは、彼らの親戚だ。でも俺は数日前に会ったただの旅行者だ。

当然最初に俺を見捨てるに決まっていると思っていた。

 

けど彼らは俺を守ってくれた。

俺はただ見ている事しかできなかった。

 

オジサンは全員のクレジットカードを集め、これだけある、頼む、それに家も車も売る、頼む、と大きい声で何ども何度も言った。

 

オジサンと警官は部屋を出て、少しして戻ってきた。

 

オジサンは壁にもたれかかり、頭を抱え込んだ、

二人は刑務所に送られてしまった。とても危険だとつぶやいた。

 

とても危険だ、これから棒でたたかれ拷問されながら色々と吐かせようとするんだ、、と言った

 

 

二人は帰ってこなかった。

 

 

 

俺はおじさんに何があったのか、これからどうなるのか、警官に会ったらなんといえばいいのか、彼に必死に聞いた。

 

彼は早口で俺に言った。俺はほとんど理解できず何度も聞いた。

今考えているんだ、全力を尽くす、俺を信じてくれ!と怒鳴り

明日金を払う、そして二人は帰ってくる、と小さく言っておじさんは部屋を出た。

 

オジサンは泣いているんだ。とリムが俺に教えてくれた。

俺はリムに誤った。君が俺にマリファナを渡したこと、正直に話してしまった、ごめん。

泣いて謝った。

 

リムは、いいんだよと言った。

おじさんは今泣いているんだ、おじさんが戻ってきたら

こうやって、お願いします、助けてくださいと言って頼むんだ。いいな?と足を掴むポーズをとって小さくいった。

 

俺は何も考えられなかった、もう頭が働かなかった、

さっきまで歌を歌っていたことが、みなで楽しい話をしていたことが、人生について語ったことが夢のようだった。

現にアリーとマイクは警察に連れてかれてしまった。もういない。

 

オジサンが戻ってきた。

 

俺は彼の足にしがみつき。助けてくださいとせがんだ。

 

オジサンはそんなことをするな、と言って俺の隣に座った。

そしてこう言った。

 

君は俺の大切なゲストだ、家族だ、息子だ。

俺を信じろ。大丈夫だ。

 

俺は彼にどう感謝すればよいのか分らなかった。

彼らは俺を守ってくれた、現にいまこの部屋にいる、、

 

俺は明日払うことになる保釈金、賄賂が十分なのか彼に聞いた、

心配いらない

俺は家も車も全部売ることになるかもしれない。でもノープロブレムだ。

君が助かれば俺はハッピーだ。

君は強い、君は将来もっと強くなる。大丈夫だ。こう言った。

 

俺はありがとう、ありがとう、と何度も繰り返した。

 

カランは明日何をすべきなのかを説明した。

彼らも混乱していてとても早口になっていた。

何回も説明してもらい必死で聞こうとしたが、俺は理解できなかった。

カランが、明日みんなで金を払いに行くそして二人は帰ってくる。

そして何もなかったことになるんだ。オジさんを信じろと俺に怒鳴った。

 

俺は不安で、何もわからなくて、彼らに質問を浴びせた。

頼む俺を信じてくれ。今考えているんだ。大丈夫だ、おじさんは小さく言った。

 

もはや俺は彼らに何も聞く事はできなかった。彼らもいっぱいいっぱいだった。

 

俺たちは一つにならなきゃならない、強くなければならない、ベストを尽くす。

俺を信じてくれ。明日ソウタは日本に帰る、大丈夫だ、今日はもう寝よう、そうおじさんは言った。

 

俺はおじさんを信じることしかできなかった。

 

警官に誰とも連絡を取るなと警告していた。ネット環境がなければ使用できないが念のため電源を切った。

 

オジサンはこっちに来い、と言って俺は彼のベッドに座った。

俺はもう死んだようにうなだれていた。

彼は明日金を払いに行く、そして君は日本に帰る。いいな?そう言った。

 

俺は日本に帰ることができるとは全く思えなかった。

 

でも俺は信じることしかできなかった。

 

日本に帰ったら仕事はあるのか?と彼は聞いた。

無いことを伝えると、日本で一緒に宝石を売ろう、利益は半々だ。そうすれば君はまたスペイン、フランスと旅をすることができる、俺も家族を養うことができる。と言った。

 

俺は彼がもうすでに先のことを考えている事に、彼の強さを感じた。

アニーもカランも最初からビジネスに俺を誘ってくれていたのは、俺を何か見込んでくれていたのかもしれない。それを俺は適当に流して聞いていた、そのことを深く反省した、そして俺の事を心配をしてくれていることに感謝した。

 

俺は何の知識もなく、社会経験も浅い事をつげた。

すると君は商品についてそのまま日本語で話してくれればいいんだ、俺は話せないんだ。そう言って下を向いた。

分りました。真剣に全力で働きますと言うと、ありがとうと言って彼は俺を強く抱きしめてくれた。

彼は20日後に日本に行くそして一か月一緒に暮らしながら働こう。そう言った。

俺は一か月ではなく、おじさんが望むまで働きますと言った。

 

近くで塀が叩かれる大きな物音があった。

俺は警察かもしれない、気が変わって連行しようとしているのかもしれない、そう思った。

オジさんも、固まってしまい。耳を澄ませた。

何かの動物だったようだ。

 

お互いに疲れ切っていた。

 

ありがとう、今日は明日に備えてもう寝よう。そういって、俺はおじさんと同じベッドに横になった。

 

全く眠ることができなかった。リムが俺を誘いこっちで寝るぞといい、いつもの離れに移動した。

 

俺はチキンカレーを食べたアパートで写真を数枚撮っていた事を思い出した。

消去しようとしたが保存されていなかった。

俺は不安だったため、万が一のために、旅で撮ったほとんどの写真を消去した。

 

俺は眠れなかった。そんな俺をリムは励ましてくれていた。

 

ネガティブな考えしか出てこなかった。もし、日本に帰ることができたなら、俺はおじさんと死ぬ気で働く。

 

ももし、インドの刑務所に入ることになれば、俺は死ぬことになる。

 

健全な国民、子供でさえ物乞いをしている、体に障害を抱えている人でさえ物乞いをしていかなければ生きていけない国がインドだ。

 

法を犯した者なんか、死んでも構わないという扱いをされるに決まっていた。

 

それに金でどうにかなるような国だ、外国人で言葉も上手く話せない俺は、いじめられ殺されようとも、どうにか揉み消されるかもしれない。

夏は50℃を超え、冬はマイナス付近まで冷え込む、メシだって腐っているだろう、

 

俺は死ぬかもしれない、殺されるかもしれないと思った。

しかも日本のみんなに迷惑をかけて、、

 

本で読んだことも思い出した。

それは麻薬関連の何かで捕まった日本人がインドの刑務所に入れられ、その悲惨さを目の当たりにした彼はその日のうちに首をつって自殺をしてしまった。というもの。

 

それでも俺は生きようと思った。

 

しかし、しばらくすると、どうやって刑務所で自殺をすればよいのか、その方法を考えてしまっていた。

俺は死ぬ覚悟を決めていた。

 

 

 

 

朝になった、1~2時間くらいしか眠っていないと思う。

昨日の覚悟はどこにいったのか、生きたい、日本に帰りたいという思いが強くなっていた。今日の行動に全てかかっていた。

 

荷物をまとめて出発する、その家の家族と目を合わせることができなかった。

 

土下座をしようと思った。

 

でも出来なかった、、会釈して車に乗り込み出発した。

 

車の中で、おじさんの電話を借りて三枚のクレジットカード会社に連絡し、限度額の引き上げを頼んだ、この金額によって運命が左右するかもしれない、必死だった。

 

増額することはできなかった。

 

片道三時間ジャイプールの街に向かっていた。金はお金と同じ価値がある、だから金そして現金を警察に持っていく。

俺は、心無く窓の外の風景を眺めていた。家族を友達を想い、ずっと泣いていた。

オジさんは俺に、俺を信じろ、あんまり深く考えすぎるなと励ましてくれた。

 

突然

伏せろ!そういって俺の頭を押さえ込んだ。

警察だ、見られるとあまりよくない、そう言った。

 

俺は怖くて怖くて足が震えていた。

 

店に到着した。お店では明るく笑顔で普通にするんだぞ、怪しまれたら終わりだ、そう忠告した。

 

俺はニコニコして店に入った。

金を購入するため、カードを機械に通すが、なかなか反応しない、

全てが俺の運命、友達の運命がかかっている。カードを持つ手が震えた。

そこでは二枚のカードを使うことしかできなかった。

 

もう一枚は現金としてATMで引き出すことになる。

運転をカランから、おじさんに変わり、カランはが旅行会社に俺の航空券を買いに行った。

 

かなりの時間待っていたが、なかなか帰ってこない。

俺のパスポートはインドで共有されていて、もう使えないのではないか、そう思った。

 

その間にATMを使い金を引き出す、一台目の機械は使うことができなかった。

走って別のATMを使う。そこではなんとか引き出すことができた。

おじさんの早い呼吸音が聞こえていた。お互いに深く息をついた。

 

その間にカランが航空券をとってくれていた。Eチケットを見せて、確認しろ!と声を上げた。

名前、生年月日、時間、番号、、etc 間違いはない。

夜の9時発、朝8時半着だった。

 

君はこれからタクシーで空港に向かうんだ。そうオジサンは言った。

 

俺は皆で警察に行き、金と交換で二人が帰ってくるものだと思っていた。

 

違うんだ、お金が十分じゃないんだ、もし一緒に警察に行ったら問題なんだ。

だから君はまず日本に逃げるんだ。その後俺たちは警察に向かう。オジサンはそう言った。

 

俺が先に逃げてしまえば、おじさん、カラン、リム、がどうなってしまうのか分らない。

それに俺は逃げる途中に警察に見つかってしまえば終わりだった。

 

俺を逃がしてくれようとする彼らに俺は感謝した。

彼はお金はいくら持っているのかと、尋ねた。

全て彼らに渡し、クレジットカードも上限金額すべて使ってしまい。数十円と言ったところだった。

 

オジサンは俺に50円ほどくれた。

 

これで水は買えるだろう。もう俺には全部お金がないんだと言って謝った。

それだけ彼らもギリギリだった。

 

日本に到着したら、必ず連絡してくれ。君が無事につけば、俺はとても安心だ。

それと俺は君のカードを預かっている、すぐに上限金額を上げる手配をするんだ、それができたらまたすぐに連絡してくれ。

そう言った。

 

日本に着いたら、すぐに連絡する、そしてすぐにお金を送る。もしそれが十分じゃなかったら、どうにか準備するから必ず言ってくれ。そう彼に言った。

 

彼は涙を流した。

 

車を降り、三人と抱き合って、別れた。

俺はもし、日本に帰ることができたら、彼らのように強く生きよう。そう思った。

カランは俺にいつもの魅力的な笑顔を最後に見せてくれた。

 

オジさんに、ありがとうと言うと、

 

当たり前だソウタは俺の息子だ。

 

そう言って俺のほっぺたにキスをした。

 

タクシーは出発した。

 

俺は完全に一人になった。

時刻は12時半、空港までは約6時間、時間はなかった。

 

俺は、必死に日本に逃がすよう動いてくれた彼らに感謝し、泣いた。

日本の家族、友達を想い、泣いた。

 

車が停車するたびに、速度をゆるめるたびに、路地の方に入っていくたびに。

運転手は警察と繋がっているのではないか、警察がいきなり入ってくるのではないかと、怖くなった。

 

渋滞になったら終わり、事故を起こしたら終わり、運転手が倒れたら終わり、、空港に時間内に到着できなければ、飛行機に乗ればければすべてが終わってしまう。

 

それ以前に空港で警察が待ち構えているかもしれない、、様々な考えが頭を渦巻く。

 

もし何かあっても俺には数十円しかない。そこからどうすれば良いのか、、

 

その時のことは考えない事にした。

 

空港には3時間前に到着した。

 

涙は枯れていた。

 

泣いてはいけない、目が赤くなると怪しまれる。怖さで震えてはいけない、怪しまれる。

 

俺は必死に平静を装った。

 

いくつかの審査を通過し飛行機に乗ることができた。

俺のパスポートの情報は共有されてはいなかった。

 

最後の最後に飛行機に、警察が乗り込んでき、チェックし見つかってしまう。そんなイメージがずっとあった。

 

実際に飛び立つことができた時、ようやく少し安心することができた。

 

日本に到着した、そこに警察はいなかった。

 

俺は公衆電話まで走った。

 

すぐおじさんに電話した。無事に到着した。これからショップに行ってスマホを使えるようにする、そしてすぐにお金を送ると約束した。

 

最寄駅まで電車で向かった。

俺は10月には日本に来る予定だったアニーが今は刑務所にいる事を想い、彼の家族を想い、カランを、おじさんを、リムを

そして、これから会うことができるかもしれない、家族を、友達を、想い泣いた。

人目を気にせず、大泣きした、鼻水もだらだらだった。

 

駅に着く少し前から、これからのことを考えた。

 

自分を信じるしかない。

 

お金を払い、そしておじさんが日本に来る時までには、たくさんの語学をそして石の勉強を死ぬ気でして、アパートを手配して、インド料理も覚えておこう。

 

まずは保釈金をインドへ送ること、これに集中しよう。

 

駅に着くと、すぐにスマホを使えるようにした、すぐにおじさんに電話をかけ、30分以内には金を振り込むと言い、銀行に走った。

 

大丈夫だ、大丈夫だと自分に言い聞かせた。

 

 

銀行では相手に送るまでには数日時間がかかることが分かった。

 

すぐに彼に電話をした。

それではダメだ、時間がない。今日でなければいけないんだ。彼は怒鳴った。

ウェスタンユニオントランスファーというところなら即時に送金することができるかもしれない、何度も電話をした挙句わかった。

ビジネスをしているおじさんの知識に感謝した。

 

横浜行きの電車に乗った。そこで送金できる。

俺の行動すべてに3人の友達の命が、その家族の運命がかかっていた。

 

彼は15万円送ってくれと言っていた。

 

でも俺は不安だった、そんな額で十分なのか、、警察がこれではダメだと突っ返すかもしれない。

俺は50万円送ることにした。

 

到着し、ようやく送金できる状況が整った。

 

しかし、その際に使われるパソコンの動きが悪く、また送金できる金額の上限があり、それがあまりお店の人が把握していないようで、送金できずに1時間は経過していた。

俺はとても焦っていた、、今日中に送れなければ俺の友達は刑務所だ。

 

俺は何度も今から送ると電話をかけた、おじさんも苛立っているのが分かった。

しかし、おじさんは50万では足りないかもしれないと言った。

 

最初にオジサンは15万円だと言った。それで不十分だと思ったから50万送ろうとしていた。

いくら必要なんだ?俺は怒鳴って言った。すべてこの瞬間にかかっていた。

 

 

オジサンは言った

いくら払えるんだ?と。

 

俺は何かその言い方に少し違和感を覚えた。

 

いやに冷静なトーンだった。

 

俺はすぐにかけ直すと言い電話を切り、ジャイプール 警察 詐欺 といったワードを入れて検索をした。

 

俺が経験した同じような内容が書かれていた。

ジャイプールという町で声をかけられ、いとこの結婚式があると言いおじさんの村に行き、とても親切にされ、警察に見つかり、、、という内容の記事をがあった。その彼は怪しさに気づき逃げることができたようだった。

 

写真が何枚かあった。

 

写真に載っている家は、おじさんのの家とともも似ていた。

でも確実とは言い切れなかった。

警官から逃げて入った勝手口、その前に流れる水。これは確実に覚えていた。

写真と記憶が一致した。これは同じ家かもしれないと思った。

 

頭が混乱したまま、

俺はすぐにおじさんに電話をかけて聞いた。

 

二人はまだ刑務所にいるのか?

 

彼はそうだと言った。

 

では、その刑務所の名前はなんだ?

 

3秒くらいの間があった。今まで電話をしてそんなことはなかった。

そして知らないと彼は言った。

 

俺は何も分らなくなった。何もわからなくなった。

 

オジさんは、俺を疑っているのか?俺は君を助けたんだぞと言った。

 

俺はあなたを信じている、本当のことを言ってくれ、友達を助けたいんだ。そう言った。

 

彼は大きな声でなんだかんだと早口でまくしたてた。

 

俺は電話を切った。

 

店に戻り、詐欺だったかもしれないと言い、店を後にした。

 

記事に書いてあったことは、俺の経験している事とかなり似ていたし、家も鮮明には覚えていないが、かなり似ている。

ももしかしたら友達がまだ刑務所にいるのかもしれない。そう思うと、どうしたらよいのか分らなかった。

 

俺は何度も彼に電話した、疑いの疑問を彼に浴びせた。

 

俺はあなたの家に行った初めての外国人なのか?

 

そうだ

 

じゃあなぜネットに家の写真がある?

 

分らない。

 

彼は俺に大声で、君は俺を信じていない、俺は君を助けたんだ!

とそんなことを言った。

 

 

俺はそれと同じような内容の電話を何度も何度もした。

 

そして彼は言った。

 

ドント ウォーリー、ユーアー ノット グッドマン

 

そう言って電話を切られてしまった。

 

 

それからはまったく電話がなかった。

 

それがすべての証拠だった。

 

俺がどんなに疑おうとすべてが事実だったら、泣きながら頼み込んでくるはず。

 

でも電話はなかった。

 

何も、何も全てが分からなくなった。

 

俺は2日間何も食べていなかった。

 

もう限界だった。疲れ果てていた。

 

俺の旅は終わってしまった。気づかぬうちに、夢にまでみたこの旅は、何の心の準備もなく。去ってしまった。

 

日本に帰ってきたよろこびもなく、俺は横浜駅前に座り込んだ。

 

 

 

怒りが込み上げてきた。お金目的にしても、やり過ぎだ。

 

電話をかけ直すとおじさんはハローと言った。

 

俺はインドに戻る、家の場所も分っている。覚悟しとけよ。

そう言って電話を切った。

 

 

横浜から自宅まで帰った時の記憶が無い。

 

どうしてもあの3日間が演技だとは思えない。

今でも1mmも疑うことができない。

 

それでも、嘘だとは思えなかった、彼らの顔が、笑顔が思い浮かぶ。

嘘だとは思えない、、本当に今、彼らは刑務所にいるのかもしれないと思うと、どうすれば良いのか分らなかった。

 

 

ただ少し疑問に思うことはすこしあった。

 

マリファナをわざわざ俺に持たせたこと。

写真が消えていた事

インドで金を引き出したとき、なぜその時彼らの金も一緒に引き出さなかったのか、、

 

 

3日間寝食を共にしてたったこれだけ、全ては自然だった。嘘とは到底思えない。

あの悲惨な光景が嘘だとは今でも全く思えない。

 

でも嘘だった。

5時間ほどたって、おじさんから電話がかかってきた。

するとインドにはいつ来るんだ、俺は20日後に日本に行くんだ!となんども大声で怒鳴っていた。

かけ直すと言って切った。

 

かけ直すつもりはなかった。

 

次の日に2度着信があった。また次の日にも2回、そして着信拒否にした。

 

彼は俺のメールアドレスを知っている。用があるならメールですればよいのにそうしようとはしない、証拠が残るのが嫌なのだろう。

 

 

もし送金に時間がかからなかったら。俺は金を送っていただろう。

そしてそれでは不十分だった、数千万必要だと言われたら

なんとかして用意し払っていただろう。

そして彼が来るまで日本で待ち、彼とジュエリーの仕事をし、知らないうちに詐欺に加担されていたかもしれないし、また多くの金を彼に渡していたかもしれない。

 

 

そして何も嘘だと気づかないまま、借金を返す日々に追われていたのかもしれない。

 

 

俺の人生は終わり、家族の人生も終わっていたかもしれない。

 

 

もし、送金がスムーズに遅れていたら、、それを考えると悪い方向にいくらでも考える事ができる。

 

 

あの警察は本物で金を受け取ったのか、警察自体が偽物なのか?

あの家の子供たちは、彼らのやっている事を知っていたのか?

将来あの子供たちも加担させられてしまうのか?

 

疑問は尽きない。

 

スマホでみた記事は2009年のものだった。

すると彼らは少なくとも8年はこんなことをやっていることになる。

 

それまでに何人の人が犠牲になったのか、、そしてこれが嘘だと気付けた人がどのくらいいるのか、、もしかしたら友達はまだ刑務所にいると信じて借金返済に四苦八苦しているかもしれない、自殺してしまった人だっているという可能性だってあるかもしれない。

 

 

俺は見つけた、一つの記事によって救われた。

 

 

 

もしその記事が、写真がなければ、、、、

家族に友達に怪しいといくら説得されても、彼らを救うという考えに取りつかれていた俺は、意志を曲げることは絶対になかったと断言できる。

 

気づくことは難しかったかもしれない。

 

 

だから俺もこの経験を残すことで誰かが救われるかもしれないと思った。

 

そして今、思い出したくない瞬間をできるだけリアルに呼び起こしてこの文章を書いている。

 

この出来事はまだ数日前のこと。

目をつぶるとあの恐怖の瞬間に連れ戻されてしまいそうでとても怖い。

毎日、あの時の夢を見る。そして俺を暗くさせる。

 

 

 

理解してもらいたい気持ちからこんなに長い文章になってしまった。

ここまで読みにくい文章を読んでくれてありがとうございました。

 

 

 

 

俺は騙されてしまった。けど俺は大事なことを学ぶことができた。

大切な一つの訓練だったと今では捉えてる。

 

 

 

全部うそだったかもしれないけれど、

彼らと過ごした3日間で感じた事、考えたことはまぎれもない本物だった。

 

俺は無条件に親切にしてもらい、とてもとても嬉しかった。

自分の考えをストレートに伝えられる人間になりたいと想った。

それに自分に知識、力、心の強さが無いと人を助けることもできないということも思った。

 

カランやアリー、おじさんのような人間になろうと思った。

 

 

これは全部本当の気持ちだった。

だからその時の気持ちを大切にして生きていこうと思ってる。

 

 

 

俺はこれが原因で、うつ病や、対人恐怖症になったりなんかしない。

 

もう誰も信じない。

なんて思ったりもしない。

 

これからもどんどん人を信じまくっていく。

もしそれでまた騙されるようなことがあったなら。

その時はその時だ。

そうやって生きていく方が楽しいと思うから、そうやって生きていく。

 

 

夢にまでみた旅は、突然終わってしまった。

正直今何をどうしていけばよいのか、分らない。

 

 

けど、

俺が好きな言葉を集めた最強ノートにはこんな言葉が書いてある。

 

 

「本当に迷子になったとき、人は本当の道を見つけることができる。」

 

「人生とは何かを計画しているときに起きてしまう別の出来事のこと。」

 

 

 

これから旅立つ君へ、

 

旅はイカれたようにとても楽しかった。本当は、旅であった面白い話しがしたくてたまらない。

 

旅に出たい気持ちがあるのなら絶対に行った方が良い、と俺は思う。

 

だけど、自分の身を守れるのは自分だけだから。そこは覚悟を決めなきゃいけない。

 

俺は旅からたくさんのことを学べた。

大変な目にあってもそう思えることができるのは、旅に出たからかもしれない。

 

俺は今回こんな経験をしてしまったけれど、何も反省はしていない。

 

自分の信じる通りに行動した。

 

だから何も反省していない。

 

これからも、彼らの生活に入り込んでいったときのように、好奇心を忘れずに、

楽しんでいこうと思う。

 

 

 

 

 

最後までありがとうございました。

 

俺はこの出来事からたくさんの事を学んだ。

 

だけど、こんなに痛い経験をしなくても、大切なことに気づくことはできると思う。

 

だから、こんな経験は俺が最後になることを願っている。

 

旅を求めている人が周りにいたら、この事を伝えていただけたら、嬉しい。

 

 

それにしても、旅は最高に楽しかった!!